SENDAI for Startups! 2019 DAY1 / SENDAI SOCIAL INNOVATION SUMMIT

Date :
2019.02.22
Place :
宮城県仙台市 AER5階多目的ホール
Event Summary :
震災で社会問題がより浮き彫りになり、
「社会、地域のため」という想いが広がっている仙台・東北だからこそ、
社会課題解決のための様々なイノベーションが生まれてきています。
そんな社会課題に立ち向かう起業家の声を聞き、
課題解決への可能性を感じ、
そしてご自身も一歩踏み出していくきっかけにしていただきたい、
そんな思いのこもったイベントです。

課題先進地域・東北が生む「社会起業家」の熱を体感せよ。

地方では最大規模を誇る起業イベント「SENDAI for Startups!」が2月22〜24日、宮城県仙台市のAER5階多目的ホールで開催された。東北各地の起業家が登壇し、地域を、世界を変える熱い思いとビジョンを披露。3日間で約1000人の来場者を集め、全国や世界で活躍する豪華ゲストからも仙台の起業熱の高さに驚きの声があがった、熱い三日間となった。

開催初日の22日は社会起業家たちが集まる「SENDAI SOCIAL INNOVATION SUMMIT 2019」。12人の起業家が、地域や社会の課題をいかにビジネスで解決していくか?の事業プランを発表した。会場からの投票や審査員の審査により、東北から世界を変えうる社会性の高い事業、「東北ソーシャルイノベーション大賞」に選ばれたのはーー。

世界のビジネスで高まる「ソーシャルであること」の意義

早稲田大学入山章栄准教授 × News Picks佐々木紀彦CCO

イベントの幕開けでは、仙台市経済局産業振興課の白岩靖史課長があいさつ。「東北の抱える困難な課題に対しては、美しいスローガンでなく、事業を通じて現実に立ち向かう起業家の存在が大切。震災から約8年が経ち、仙台には東北や全国から多種多様な起業家や支援者が集まり起業家を応援する文化が育っている。東北ならではの起業を取り巻くエコシステムを作っていきたい」と話した。

基調講演では早稲田大学ビジネススクール准教授入山章栄さんとNews Picks CCOの佐々木紀彦さんが「なぜ今、ソーシャルイノベーションなのか?」というテーマで対談。入山さんはアメリカの最新の研究を引用しながら「これからのビジネスに必要なのは“正確性”ではなく“納得性”。腹落ちすること、ストーリーテラーであることが大事。こんな風に社会を変えるんだ、地域をよくするんだ、という世界観が共感する人を巻き込んでいく」と、ビジネスの世界で「ソーシャル(社会性があること)」の重要性が高まっていることを説明した。

佐々木さんは「ソーシャル」を「大義」と言い換え、「『大義』と『やりたいこと』がつながったとき、ユニコーン企業が生まれる。日本のスタートアップは大義が弱すぎて、多くの人を巻き込むことができない。視座を高めるためには、時代を超えてどれだけ普遍的なものを読んだり語ったり考えたりしたか?の教養が大事になる」と指摘。強烈な原体験を持っていることは「大義」の源になるとして、「東北は(震災で)悲しい出来事の原体験がある。そこに深い教養が入って原体験と教養が組み合わされば、とてつもない企業、イノベーションが生まれる可能性がある」と語った。

「何者であるか?何のために?」言葉で表現することが、事業を強くする

社会起業家育成プログラム出身者たちのパネルディスカッション

続いて、仙台市とINTILAQが取り組む社会起業家育成プログラム「SOCIAL INNOVATION Accelerator」の2017年度の採択者3人によるパネルディスカッションが開かれた。登壇したのは、建物のリノベーションをクライアントやその仲間たちも巻き込み、プロも素人も一緒に作る参加型の建築スタイル「DIO(Do It Ourself)」で建物だけでなく同時にコミュニティも設計する事業を展開する株式会社ミライデザインワークス代表の小島英弥夫さん、子供の貧困問題、特に貧困の連鎖を断ち切るために子どもたちの生きる力を育む居場所運営に取り組む特定非営利活動法人STORIA代表の佐々木綾子さん、低出生体重児向けの衣服販売の事業を準備するMUSASI D&T株式会社代表の佐藤里麻さんの3人。昨年度のプログラムに参加した意義や、卒業してからの事業の成長を振り返った。

小島さんは「プログラムに参加した当初は『建築家』と名乗っていたのを、参加してから は“we are dream builder” と名乗るようになった。事業を進めていくうちに『we』の範囲がどんどん広がってきて、色んな形で参加してくれる人が増え、応援の輪が広がってきた」。佐々木さんは「プログラムでは団体の目指すビジョンを表す言葉を考え抜いた。あれからビジョンが浸透して心臓となり、そこから血液が流れ、組織が生きて育っていき事業が強くなっていった感触がある。スタッフも生き生きと取り組んでくれている」と、成長の実感を語った。佐藤さんは「どんなに小さく産まれてもベビー服を着られるのが当たり前の社会を作りたい。事業の準備を進めており、もう少しでそれができる」と力強く話した。

会場最前列で3人の議論を聞いていた入山章栄准教授は「人間は言葉に規定されるもの。事業のビジョンを表現する言葉が変わったり、言葉になってない概念を新しい言葉にしたり、ミッションを動詞で言い表していることは非常に大事なこと」と興奮気味に総括した。

「社会を変える」。東北の社会起業家によるピッチがスタート

そしていよいよ、今年度の「SOCIAL INNOVATION Accelerator 2018」採択者たちによるピッチがスタート。社会起業家たちは一人10分の時間内で、冒頭の2分の動画と8分のプレゼンテーションによって自分の解決したい社会課題と実現したい事業を発表した。

病気になる前の運動サポートで、家族の介護負担軽減を

ケアライフサポートえにか代表・阿部久美子さんは訪問介護師としての経験の中で、高齢者が生活習慣病などで歩けなくなることで、家族の介護負担も大きくなってしまう課題を感じていた。「病気になる前に、健康に向き合う習慣づくりが必要だ」と考えた阿部さん。独自の3分運動「えにかサポートプログラム」を考案し、40~60代夫婦にカウンセリングや運動サポートを個別に行う事業プランを発表した。「10年後に宮城県のメタボ割合を30%から20%にまで減少させ、全国ワースト3位からの脱却を目指す」と目標を掲げ、サービスを展開する上で夫婦モニターへの応募を会場に呼びかけた。

若者が仕事の悩みを打ち明けられる「BAR」を開く

仙台でICTコンシェルジュとして働く飯田有紀子さんは、日本の若者が会社の入社後にモチベーションを維持できない現状を指摘。自身が慣れない赴任先で働く大変さを経験したことから、若者が気軽に悩みを語り、解決につなげられるような「Fantro Bar(不安吐露場)」を作る構想を発表した。家でも会社でもない第三の居場所として、毎回さまざまな社会人の先輩(Fantrar)が若者の悩みを聞き、悩みの正体を明確化。生き方のヒントを提供し、その人の行動を後押しする場にするというものだ。飯田さんは「若手社会人が自分らしく生きられる社会を実現したい」と意気込みを語った。

不登校の障害児を支援できる体制をつくる

介護福祉事業を展開する株式会社ゆらリズム代表の野崎健介さんは、自らの不登校や高校退学の経験を明かした上で、うつや自殺にまでつながることがある不登校を、早期に発見して対応することの重要性を語った。中でも障害児に向けた不登校支援をする機関がない課題を挙げ、「放課後等デイサービス」の枠組みで不登校の障害児に対して支援の場づくりをする事業プランを発表。仙台市内の1000人の不登校を予防するとの目標を掲げた。野崎さんは「困っている人は近くにいるから、手を差し伸べてほしい。やり方が分からなければ、私に相談をしてほしい」と会場に語りかけた。

子育てで孤立しがちな母親への「ワークサポート」を

一般社団法人ココマムプラス代表の熊谷知子さんは、母親の育児ノイローゼの問題や、子育てを理由に働けない母親が全国で約400万人いることなどの問題を提起。孤独を感じやすい育児中の母親が生き生きと活躍できる環境を整えるために、働く場所や働き方についての情報を知ったり、ワークライフバランスについて相談したりできる場所「MAMAPLACE」を設立する構想を発表した。スキルアップセミナーなどの学びの場や企業とのマッチングサポートもしていく予定として、「3年間で120人のママが未来を見つけ活躍する」という目標を掲げた。

認知症の高齢者が「役割」を見つけ、生き生き過ごせる地域交流スペースの開設

マイムケア介護事業部長の林久美さんは、認知症の高齢者が近所の馴染みの付き合いから引き離されてしまう課題を感じていたと話す。要介護や認知症になった人でも地域の人々とともに暮らしていける環境をつくるため、地域交流スペース「マイムテラス」を開設すると発表。地域の人々が気軽に立ち寄り、認知症や要介護の人にミシン仕事や子供を預けるなどの「役割」をお願いすることで、「お世話される人」ではなく「まだまだ活躍できる先輩たち」として感謝され、生き生きと過ごすことができるような場づくりを計画している。林さんは「誰もが総活躍できるスローコミュニティを実現したい」と語った。

福島県の全市町村でギネス世界記録を達成し、未来を担うリーダーを育てる

一般社団法人59の世界記録代表の神酒太郎さんは、震災後に風評被害や人口減少などの課題が山積みの福島県で、地域の将来を担う若い人材が不足していると指摘。福島県各地の学校で「ギネス世界記録™️」に挑戦するプロジェクトを立ち上げることを通じて、学生が地域の人々や企業と協力し合いながらリーダーシップや協調性を身につけて成長していける、ユニークな教育手法を提唱した。学生がプロジェクトを通じて自信を付け、地域の将来を考えるようになった実例などを紹介しながら、「10年後、59市町村に地域リーダー誕生させる」という目標を掲げた。

「コトバマグネット」で子供の自己肯定感高める

「コトバマグネット」プロジェクト代表中田敦夫さんは、日本の子供たちは小学校高学年ごろから自己肯定感が下がってしまうというデータを挙げ、「子供の自由な発想を受け止めてあげる承認の場が必要」と指摘。「コトバマグネット」という独自の道具で自己肯定感を高める教育プログラムを提唱した。ばらばらの言葉が書かれたカードを自由に組み合わせることで子供の自由で豊かな想像力を引き出していくゲーム感覚のプログラムで、そこから生まれた発想を地域企業などに持ち込み、商品やサービスとして実現していく構想を掲げた。

精神疾患患者が自分らしく働き続けられるしくみづくりを

精神疾患を持つ人の社会復帰支援に関わるアミークス株式会社代表の高橋真一さんは、全国で361万人いる精神科外来通院者のうち、1年働き続けている人はわずか2.5万人であることを指摘。障害者雇用の進まない現状を変えようと、「アミークスゾーエン」というサービスを発表した。企業の領収書処理やパンフレットや書類のデータ化などの業務を受注し、精神疾患を持つ人に対して体調管理や適応支援をしながら働きやすい環境を整えた上で仕事ができるしくみを整える。2019年6月正式リリース予定で、高橋さんは「社会の中で誰もひとりぼっちにならない社会をつくる」と宣言した。

三戸に、地域の挑戦者が活躍できるサポートセンターをつくる

sannohe yellの五十嵐淳さんは、2018年夏に青森県三戸町に魅せられ移住。その経験から、地方では地域で新しい取り組みを始めようとする「挑戦者」と地元の人との間に意識のギャップがあることが大きな課題となっているのではないかと投げかけた。そこで、三戸町で挑戦者を支援するための「地域価値創造挑戦者サポートセンター」をつくる構想を発表。地域の人たちと目線を合わせる機会を作ったり、活躍できる場を整備することなどを通じて、地域の挑戦者を支援する。高級リンゴを使った3千円のリンゴジュースの販売など、すでに新しい挑戦がスタートしている例も挙げ、地域の盛り上がりを伝えた。

患者や家族の生き方に寄り添う「対話型医療コミュニケーション」を実践

薬剤師でアレグリアコミュニケーションズ代表の佐藤京子さんは、父親が亡くなる際に病室の外で待たされ、お別れができなかったという心残りができたとの経験を話した。そのときの「医療者がもっと寄り添ってくれたら」という思いから、医療者が患者や家族の思いや生き方に寄り添うような「よりそう対話型医療コミュニケーション」の必要性を提唱。3年で100人の対話型コミュニケーションが実践できる薬剤師を養成し、5万人の患者が「患者や家族の生き方に寄り添う医療」に接することができる社会の実現を目標に掲げた。

障害児や家族が孤独を感じない社会を実現するアプリを開発

山形県で障害のある子供の学童「みんなのそら」を運営する平形洋司さんは、障害児やその家族が孤独や不安を感じないような社会をつくりたいと発表。そのためにスマホアプリ「Happy Notes」を開発し、障害を理解するための情報発信をしていくことで、社会の無理解や差別を減らしていく構想を語った。アプリでは家族が知人には言いづらい不安や悩みを投稿したり、コメントを受け取ったりできる機能を実装し「悩みを打ち明けて支え合える場にしたい」という。ユーザー交流会やセミナーなどのイベント、カウンセラーへの個別相談などもサービス化予定で、「一人じゃない、と安心できる拠り所にしたい」と思いを語った。

社会的少数者が違和感なく溶け込む「マイノリティーのメガネ化」を実現したい

侍姿でモビリティスクーターに乗って登場したプラスクロス代表の山田毅さんは冒頭で、社会的少数者が違和感なく溶け込む社会「マイノリティーのメガネ化」を実現したい、と力強く語った。ヒューマンライブラリー、VRトラベル、展示会、ファッションショーなど、さまざまな企画を実施することで無関心層に働きかけ、さまざまな社会的少数者への関心を高めたり、支援活動へ参加するきっかけをつくったりする構想を掲げた。今後来場者数1万人の総合福祉イベントを開催するという目標を掲げ、「最新福祉の基地局にしたい」と意気込んだ。

いよいよ大賞発表…「課題を抱える東北、世界の先端を行っている」

12人によるピッチが終わり、いよいよイベントは審査発表へ。まず会場来場者の得票数が多かった「共感賞」は、高齢者が生き生き過ごせる地域交流施設「マイムハウス」を発表した林久美さんと、「マイノリティーのメガネ化」を訴えた山田毅さんに贈られた。

審査員が「プレゼンテーションへの評価」、「持続的なビジネスとしてのポテンシャル」、「社会的インパクトを生み出すポテンシャル」の3つの視点から総合的に審査する「東北ソーシャルイノベーション優秀賞」は、山田毅さんと、教育プログラム「コトバマグネット」を考案した中田敦夫さんに贈られた。

そして栄えある「東北ソーシャルイノベーション大賞」は、林久美さんが受賞。林さんは驚きを隠せないようすで、「世の中に悪い人はいないと思っています。人とたくさんコミュニケーション取って、スローコミュニティを実現していきたいです」と涙ながらに語った。

審査員を務めた入山さん、「皆さんのビジネスは『思い』から入っているから素晴らしい。課題を抱える日本の地方、東北で、皆さんは世界の先端を行っている。本当に感動した」。佐々木さんは「平成の日本は『自助』と『公助』の世界になってしまって、『共助』がなくなってしまったのがギスギスしてしまった原因だと思っているが、今日の皆さんの話はまさに『共助』の世界だった。これからは大義にプラスして、お金が回る仕組みが必要で、フィランソロピー資本主義が必要とされる時代になるのではないか」と総括した。