東北とフィンランドの学生が競い合う!東北最大級のアプリコンテスト
DA・TE・APPS!2019〜第一部 ITコンテスト〜

「SENDAI for Startups!」2日目となる2月23日は、東北最大級のアプリコンテスト「第5回仙台アプリコンテスト『DA・TE・APPS!2019』が開催された。主催は仙台市と仙台アプリコンテスト「DA・TE・APPS!」実行委員会、グローバルラボ仙台。グローバルラボ仙台(GLS)は、仙台市と産業経済協定を結ぶフィンランドのオウル市と連携し、ゲーム・ICT産業に関わる学生、社会人を支援している。
イベントは午前と午後の二部構成で、午前の第一部では、課題解決型アプリをテーマにした「ITコンテスト」が、午後の第二部ではフィンランドからの参加者も加え、ゲーム部門とGLS for Education部門の2部門に分かれた「ゲームコンテスト」が開催された。メインMCはグローバルラボ仙台代表幹事の原亮さんが務め、ゲストMCは「ミヤテレスタジアム」のMCとしても活躍する、タレントの渡邉冴子さんが務めた。

第一部「ITコンテスト」では、仙台市内および、東北の大学、専門学校の学生全4チームが登場し、半年かけて開発した、身近な課題を解決するアプリを発表した。後方にはコンテストに出場したチームが開発したゲーム・アプリの試遊機が「せんだいヤタイ」上に展示されており、会場に訪れた多くの参加者が足を止め、出場者たちが製作したゲーム・アプリを楽しんでいた。
これから求められるIT人材とは?IT業界の第一線で活躍するゲストが対談
オープニングでは、グローバルラボ仙台事務局長の白岩靖史さんが「僕らはこうやって世界を変えるんだ、世の中をよくするんだということを、真正面から本気でぶつけてください。みなさんのやっていることが、数年後には本当に世界を変えるかもしれない」と学生たちに熱いエールを送った。

コンテストに先立って開催されたトークセッションでは、IT業界の第一線で活躍する豪華ゲストが登場し、「これから求められるIT人材について」というテーマでディスカッションを行った。登壇者はアンデックス代表の三嶋順さん、楽天の南條融さん、マイクロソフトの千代田まどかさん、イトナブ代表の古山隆幸さん、メルカリの佐藤浩太郎さん、NTTドコモ・ベンチャーズの篠原敏也さん。モデレーターを、4Growth代表の佐藤将太さんが務めた。
「地方が若いIT人材を育てていく気風が必要」

アンデックスの三嶋さんは、水温、潮流、栄養を調べるセンサーを海中に設置し、そのデータを陸上からスマートフォンで確認できるアプリ「ウミミル」の開発など「水産×IoT」事業を展開している。 イトナブは震災以後、石巻市を中心に将来のIT業界の担い手を育てるため、小学生から大学生まで、多くの若者がプログラミングを学べる環境づくりをしている。代表の古山さんは「10年後には、IT産業ではない一般企業にもICT人材、IoT人材が必要になる時代が必ず来ると思っている。そうした人材となる若者を、育てていく気風を地方が持っていく必要がある」と、地方のIT人材不足に関する危機意識を語った。
NTTグループとベンチャー企業の協業を作る技術環境や体制づくりの支援を行うNTTドコモ・ベンチャーズの篠原さんは、東北の起業環境について「足りないものが多すぎるというのが率直な感想。エンジニアリングだけが強くても駄目で、大きなビジネスになるかどうかで重要なのは企画、プランニングの部分になる。まだまだ受託中心の企業が多いので、グローバルにスケールするようなアイディアを学生からも期待したい」と話した。
IT人材に求められるのは「積極性」と「挑戦」

メルカリの佐藤さんは、同社の2018年度の新卒社員約100人のうち9割が外国人であったことに触れ、「グローバルな基準で採用基準を設定した場合に、日本人がなかなか残らない」と現場のシビアな感覚を語った。楽天でECビジネスに関わる南條さんも「楽天市場」のエンジニアのうち、約半数が外国人であることを明かした。南條さんは「日本人の中ではゼネラリストがもてはやされるが、外国人エンジニアには、特定の分野で突き抜けたスペシャリストの方が多い。何らかの分野でスペシャリストになった方が、これからの時代には合っているかもしれない」と会場の学生へアドバイスを送った。
SNS等で「ちょまど」の愛称で知られるマイクロソフト株式会社の千代田まどかさんは、同社は「グロース・マインドセット」(学びの姿勢)を持った人材を広く求めており、入社した社員は、はじめに「我々に染まらないでほしい」「新しい風を吹かせてほしい」と伝えられると紹介。楽天の南條さんは学生との面接で「御社にはどんな教育プログラムがあるんですか?」といった質問を受けたことを紹介し、「僕をどう教育してくれるんですか?」という姿勢の学生は評価されづらく、自分自身で学んでいく姿勢が大切だと語った。

登壇者それぞれの「これから求めるIT材」について共通して現れたキーワードは、「積極性」と「挑戦」だった。千代田さんは「どんどんチャレンジしていっぱい失敗して、その失敗から学んでまた挑戦してほしいと思います。そういう人が、これからどんな会社でも求められると思います」とディスカッションをまとめた。
課題を解決するアプリ開発を競う「第一部 ITコンテスト」
課題解決型ITサービス部門では、東北・仙台の学生たちがプレゼンテーションに臨んだ。参加者は半年前からこの日に向けて地元仙台のIT企業から技術指導を受けており、当初参加していた7チームのうち、事前選考をクリアした精鋭3チームが登壇した。この3チームにハッカソンイベント「Web×IoT メイカーズチャレンジ 2018-19 in 仙台」で優勝した特別枠の1チームが参加し、計4チームが優勝を目指して争った。
審査員は、事前に各チームが製作したサービスを体験し、当日の3分間のプレゼンテーションと4分間の質疑応答への評価を合わせて総合的に最も優れたサービスを審査。優勝チームには、賞金30万円と豪華な副賞が授与される。
SNSで気になった食べ物のお店を割り出し、リスト化するアプリ
「Glip」チームfishers(東北大学)

チームfishersの製作したITサービス「Glip」は、SNSで気になったお店・料理の写真を見かけて「いいね」しても、様々な理由で結局その店には行かない、そんな経験をしたことがある人たちをターゲットにしたアプリだ。国内に存在するアプリは気になったお店の「名前を検索する」ことが必要になるものがほとんどだが、プレゼンターの林さんは「気になったお店の名前を調べ、覚えて検索する」という行動にはモチベーションが必要になり、こういったアプリは「グルメ意識の高い人」が対象になっていると指摘。「Glip」は「お店を探すのは面倒くさいけど、美味しいものは食べたい」と思っている「グルメ意識中間層」をターゲットに選んだ。
「Glip」では、普段のSNS利用の中で、美味しそうな食べ物の写真の投稿を見つけた際に、その投稿を「Glip」に共有することで、「Glip」が投稿された文章と写真の内容を自動で解析し、お店の名前、住所を割り出し、「Glip」内にリスト化として登録する。これによりユーザーは、自分が気になったグルメ情報をリストとして確認することができる。さらにマップ機能と連携すると、自分が「Glip」に共有した(グリップした)お店が近づいた際に、アプリから通知が届く。これで、気になったお店に行くチャンスを逃しづらくなる。
審査員からは「完成度が高い」「今からでも使いたいアプリ」と高評価が続出した。楽天の南條さんから「どのようにこのアプリのアイディアを思いついたのか」を尋ねられると、プレゼンターの林さんは、「Twitterなどで自分がいいと思ったお店の情報に『いいね』を押しても、それが東京のお店であることが多かった。自分たちは仙台に住んでいるので、東京を訪れるのは数か月に一度で、行った時には過去の『いいね』の情報は流れてしまって確認できないことが多かった。そうした情報をもっと簡単に管理したいなと思ったのがきっかけ」と、仙台に住む学生ならではの経験が、サービスの発想につながったことを明かした。
会議での「知ったかぶり」をなくそうとするアプリ
「iiiT」全脳アーキテクチャ若手の会 東北支部(東北大学)

全脳アーキテクチャ若手の会東北支部の製作したITサービス「iiiT」は、多くの人が経験する「知ったかぶり」をテーマにしたアプリだ。プレゼンターの中屋氏は、「自分のプライドがあったり、話の腰を折らないよう気を遣ったり、相手への忖度があったり」することで、多くの人が知ったかぶりをして、その後困ったことがあることを紹介。そのようなニーズから、会議での知ったかぶりを抑制するコミュニケーション支援アプリ「iiiT」を作成した。
「iiiT」には、大きく分けて二つの機能がある。一つ目は、会議参加者の表情から、聞き手の理解度を表示する機能。二つ目は、会議中における重要な単語、横文字の意味を表示する機能だ。会議を開催すると「iiiT」は参加者の顔の映像を読み込み、その表情から読み取った理解度を全体に送信する。同時に、会議における重要な単語が「iiiT」の画面右端に表示され、参加者の会議内容の理解を促してくれる。「理解度」という抽象的な概念を数値化することで、会議がよりスムーズになる。
審査員からは「手動で理解度を操作できる機能があると、そこで忖度が発生して、全員理解度MAXにしてしまうといったことはないか」「打ち合わせに、内容を分からない状態で行くことはあまりないのでは」という懸念の声も上がりつつ、「学習塾などでの活用が可能なのではないか」「プレゼンテーションを聞く聴衆の理解度の把握などにも役立つのでは」といったアドバイスがあった。全脳アーキテクチャ若手の会東北支部には、教育学部のメンバーも参加しており、今後は、このアプリで得たデータをもとに、論文を執筆することも検討しているという。
友達との物の貸し借りを管理できるアプリ
「lenbo」チームnullpo(東北大学)

チームnullpoの製作したITサービス「lenbo」は、「友人にゲームを貸したけど帰ってこない」「部屋を掃除していたら、昔友達に借りた漫画が出てきた」など、物の貸し借りにまつわるトラブルを経験をしたことがある人たちをターゲットにした「知人間貸し借りアプリ」だ。
「lenbo」では、友人との貸し借りが発生した際に、貸す物の「アイテム画像」「アイテム名」「アイテム詳細情報」「返却期限」を入力し、貸し出す相手である友人のユーザー記録をQRコードで読み込むことで、自分の物を貸し出す。返却期限が近づくと、リマインダーで貸し出し相手に知らせ、メッセージ機能で返却場所などをやりとりする。これらの機能により、貸し借りで発生してしまう不和を未然に防ぐことができる。このコア機能のほか、自分が今貸し出すことができる物をアイテムとして登録する「貸せるよリスト機能」、ユーザーがこれまでどのように貸し借りをしているかを示す「スコア機能」がある。スコア機能では、過去の延滞日数などが表示されるため、貸し手はスコアを見て相手に貸し出すかどうかを判断することができ、借り手側はスコアを悪化させないために、期日までに貸すことを意識するインセンティブが生まれる。
審査員からは「UIも分かりやすいし使いやすい」「シェアリングエコノミーが話題になっており、時代に合ったシステム」と評価する声が上がった。イトナブ・古山氏の「今後どのような展開を考えているか」という質問には「スキー場のスノーボードのレンタルなどは、今も台帳を使って紙で管理されているところが多く、そうしたところでの導入を目指したい。ユーザーとしても、紙に何か記載したりせず、端末ひとつですぐに貸し借りができるシステムは利便性が高いと思う」と、具体的な回答があった。
ゲーム感覚で仲間とカロリー消費量を競い合えるアプリ
「カロリークエスト」カロリー旅団(Web×IoT 優勝特別枠)

「カロリー旅団」は仙台高専、米沢工業高等学校、一関工業高校による合同チームだ。同チームは、先月開催されたイベント「Web×IoT メイカーズチャレンジ 2018-19 in 仙台」で優勝し、「DA・TE・APPS!」への出場権を獲得した。カロリー旅団の製作した「カロリークエスト」は、ゲーム感覚で仲間たちとカロリー消費量を競い合うサービスだ。「ダイエットをしなくてはいけないのは分かっているけど、一人でするのはつまらない」「最初の頃はできていたけど、どうも続かない」といった経験がある人たちをターゲットとしている。
サービスの仕組みは至ってシンプルだ。まず、「カロリークエスト」に参加する複数の人が集まった段階で、目標となるカロリー消費量の数字を設定する。設定後は、そのカロリーを消費するよう、各自でウォーキングやランニングなど運動を行う。アプリケーションが自動で歩数からカロリー消費量を計算するため、不正が行われる心配はないという。一番早く目標カロリー消費量を達成したユーザーのアプリには、宝箱を解除するボタンが表示される。このボタンを押すと、サーバーからの指令により、現実に「モノ」として用意されている宝箱の鍵が開き、プレイヤーは達成したご褒美(デモ映像の中ではポテトチップス)を得ることができる。
審査員からは「リアルに宝箱があり、それが開くという発想がユニークで良い」「フィットネスブームということもあり、時世に合っている」と評価する声もありつつ、「運動した後のご褒美は本当にポテトチップスでいいのか」と冗談交じりに疑問視する声も上がった。これに対してプレゼンターの戸田さんは、「運動した後にポテトチップス食べると、美味しいじゃないですか」と力強く答えることで笑いを誘いつつ、今後は「宝箱を開けると好きな声優のボイスで『がんばったね』という声が出る」といった、多くの人がSNSでシェアしたいと思えるような報酬も検討していることを明かした。
課題解決型スマホアプリ部門最優秀賞は「Glip」に

厳正な審査の末、最優秀賞はチームfishersの「Glip」が獲得し、同チームには、トロフィーと優勝賞金30万円、さらに協賛企業から豪華な副賞が授与された。「DA・TE・APPS!」初年度から開催に関わっている、元仙台市副市長の伊藤敬幹さんは「こういった若い人たちの元気が、この街をもう一度リデザインすると思っています。こういった動きを、みなさんで一体となって築き上げてほしい」とイベントに関わった全ての学生と社会人に激励と応援のメッセージを送り、第一部ITコンテスト部門は幕を閉じた。